魔法使いの弟子

2015年に出版されたジョルジュ・バタイユ『魔法使いの弟子』定価520円のその小冊子はバタイユと結核で死にゆく恋人「ロール」との愛の世界のエクリチュールだ。景文館書店から発行されたその表紙にはなぜかキリンジのスウィートソウルのPVのカットが使われている。キリンジのことは何も知らないし、なんとなく使ったのかとも思えるが、ゆっくり聞いてみたいと思う。

偶然の《恐ろしい》王国に背を向ける大衆のことを考えると、たちまち長い不安の中へ落ちてしまう。そうなるのはもう抗いがたい。じっさいこの大衆は、安全に確保された生が、そのまま妥当な計算と決断にだけ依存するようにと求めているのだ。恋人たちや賭博者たちは《希望と恐怖の炎》の中で燃えあがりたいと思っているのだが、そのような意欲を失った人々からは、あの《ただ死とのみ拮抗する》生は、遠く離れていく。人間の運命は、気まぐれな偶然が事を図るのを欲している。これとは逆に、人間の理性が偶然の豊かな繁殖に代えて差し出すものは、生きるべき冒険などではもうなくて、実存の諸困難へのむなしくて妥当な解決なのだ。何らかの合理的な目的に関わる行為は、奴隷のように耐え忍ばれた生活の必要性に向けて打ち出された答えでしかない。逆に、好運の魅惑的なイメージを追い求める行為こそ、唯一、炎のように生きる欲求に応えているのである。 ジョルジュ・バタイユ

Nothing Lyrics – The Fugs

映画『あくせく働くな:ラジオアリーチェ』の劇中歌を聞きなおしていて、The Fugs “Nothing Lyrics”は20世紀の名曲だということを認識した。

Nothing Lyrics
The Fugs

Monday nothing, Tuesday nothing, Wednesday and Thursday nothing, Friday for a change, a little more nothing, Saturday once more nothing.
Sunday nothing, Monday nothing, Tuesday and Wednesday, nothing, Thursday for a change, a little more nothing, Friday once more nothing.
Montik gornisht, dinstik gornisht, mitvokh un donershtik gornisht, fraytik for a novehneh, gornisht gigeleh, Shabbos vider gornisht.
Lunes nada, martes nada, miercoles y jueves nada, viernes por cambio un poco mas nada, sabado otra vez nada.
Na na nana, na na nana …
Oh, Village Voice nothing, New Yorker nothing, sing out in folk ways nothing. Harry Smith and Allen Ginsberg, nothing nothing nothing.
Poetry nothing, music nothing, thinking and dancing nothing. The world’s great books, a great set of nothing. Haughty and foddy, nothing.
Fucking nothing, sucking nothing, flesh and sex nothing. Church and Times Square, all a lot of nothing. Nothing, nothing, nothing!
Stevenson nothing, Humphrey nothing, Averell Harriman nothing. John Stuart Mill nill-nill, Franklin Delano Nothing.
Carlos Marx nothing, Engels nothing, Bakunin Kropotkin – nyuthing! Leon Trotsky, lots of nothing. Stalin less than nothing!
Nothing, nothing, nothing, nothing, a whole lot of, a whole lot of nothing. Nothing, lots and lots of nothing, nothing, nothing, nothing.
Not a goddamn thing.

フォンターナ広場――イタリアの陰謀

イタリア鉛の時代の幕開けの事件、ミラノフォンターナ広場にある全国農業銀行爆破事件を扱ったドラマ映画「フォンターナ広場―イタリアの陰謀」が、12月に日本で公開されると、粉川哲夫さんに教えていただく。

予告編を観ると、「あくせく働くな:ラジオアリーチェ」に出てくる警部補リッポリス役の俳優がカラブレージ警視役として出演していた。1969年を扱った映画の警視役を2012年に演じ、2004年に1977年を扱った、歴史的に関連している映画で公安役を演じる。当然、69年より77年のほうが若い。

これは、遅れてきた「前作品」なのだと思う。

この事件とラジオアリーチェの時代への流れについては、粉川さんの『メディアの牢獄ーコンピューター化社会に未来はあるか』「イタリアの熱い日々――街路と個室を結ぶメディアヘ」に詳しい。

そして、予告編からは、アフロディテス・チャイルドのアルバム「エンド・オブ・ザ・ワールド」 に入ってる、Rain and Tears (原曲:パッヘルベルのカノン) が聴こえる。

『あくせく働くな:ラジオアリーチェ』鑑賞ノート

Internet Archive > Moving Image Archive > Community Video > Lavorare Con Lentezza (Radio Alice)

この映画は、高度成長期後の景気後退と、1973年の第4次中東戦争に起因するオイルショックによって、「危機の時代」「鉛の時代」と形容される、混乱期を迎えたイタリアの社会状況を、実在した「ラジオアリーチェ」にまつわる物語として描き出した作品です。

◆ラジオアリーチェについて
イタリアでは、ラジオやテレビ放送の電波を国家が独占していましたが、1976年に最高裁判決が、国家による電波の独占は違法だという判決を下し、一気に社会運動関係や音楽などのコマーシャルな放送を行うラジオ放送局が乱立しました。ボローニャという大学地区では、アウトノミアにも関わる、数人の若い詩人たちによって、ラジオアリーチェが開設され、アーティスト、活動家、労働者、学生、ヒッピーなどの若者が放送局に集い、様々な番組が放送されました。

1977年3月11日、ボローニャで行われていたキリスト教聖職者団体の集会で、抗議活動を行おうとしていた学生グループに国防警察が介入・攻撃しました。警官の発砲で、アウトノミアのグループ、ロッタ・コンティヌアに関わるフランチェスコ・ルロッソが殺害され、その日のうちに、抗議運動はボローニャの大学地区を占拠しました。この事件をきっかけに、翌12日には、ローマやボローニャなどの都市でアウトノミアたちが蜂起し、暴動に発展しました。一連の動きを逐一放送していたラジオアリーチェを、暴動の煽動者であるとして、警察が急襲し、強制的に閉鎖、関係者を逮捕します。

◆映画ではいくつかの話がDJのようにミックスされていて、転換に気づきにくく、ストーリーが分からなくなる場合があります。
以下に主要な話を羅列しておきます。

◇ラジオアリーチェ
・自由ラジオ
・Call In(電話をそのままラジオで放送)
・政治や運動の話(政府、労働組合、新左翼、労働の拒否、デモ など)
・詩やおとぎばなし、音楽、コミックス
・人生相談
・お買い得情報
・フリーセックス
・野外イベント
・フェミニズム運動
・イタリア共産党とキリスト教民主党の連立(歴史的妥協)
◇主人公スガロとペロの銀行強盗のためのトンネル掘り、家族との確執
◇高利貸しに暴行し、起訴されたフランコとその弁護士マルタ
◇ワイン業者を装い、違法な商売や盗みを働くマランゴンと、警部補リッポリスとその部下アントニオ
◇ラジオアリーチェの技術者ビジと弁護士マルタ、ラジオアリーチェの発案者ウンベルトとの三角関係
◇警官に殺害された医学生フランチェスコの抗議デモから暴動、そして弾圧
◇警察によるラジオアリーチェへの襲撃

ラジオアリーチェとその時代(3)

1979年4月7日
パドヴァ大学
政治学部の全教員
を含む六十六人
が魚の泳ぐ水
を取り除く目的で
一斉検挙投獄

人民は海であり、ゲリラは人民の海に泳ぐ魚である

逮捕者の中には
アウトノミア
の理論的支柱
アントニオ・ネグリ
もいたアルド・モーロ
キリスト教民主党党首
誘拐殺人首謀の罪に
問われ最重要警備
獄舎に投獄

禁獄四年目に急進党
から国会議員に出馬
選出され出獄二ヶ月
後には議会で
議員特権剥奪
の決定が下される
剥奪賛成票
の中には急進党
の票も含まれる

No future, no future, no future
No future, no future, no future

未来がなくなること
は歴史が止まる
あるいは世界全体
が歴史の外側へ
と漏れ出すことだ

<帝国>

人民という海

は干上がりやがて

世界のメルトダウン

が始まる

ラジオアリーチェとその時代(2)

イギリスでは
失われた未来
から生まれた
叫びが響き渡る

No future, no future, no future for you
No future, no future, no future for me
No future, no future, no future for you
No future, no future for you

日本では自殺する若者
が増えていると新聞
が伝えるボローニャ
では弾圧に抗する
国際集会が開かれ運動
が集結するがイタリア
の知識人は賛同せず
さらなるテロリズム
への暴走がはじまる

1978年キリスト教
民主党総裁アルド
モーロが誘拐され殺害
キリスト教民主党
と共産党が交わる
カエターニストリート
に駐められた真っ赤
なルノーの中で発見

赤い旅団は
拳銃で足を狙い
誘拐殺害を繰り返す
監獄では蜂起が
最前線や組織化
されたアウトノミア
は襲撃を繰り返す

ラジオアリーチェとその時代(1)

イタリアの冬
1977年の冷たい朝
真空管あるいは最新型の
トランジスタラジオ
からエンツォ・デル・レの
『Lavorare con lentezza』
が流れてくる

ゆっくり働くんだ
なにひとつ頑張ること無く
急調子で働く連中は
自分を傷つけて
しまいには病院行き
でも病院のベッドは満杯
だから間もなく死んでしまうよ

ラジオアリーチェの
一日の放送が始まった

トリノでは労働者
たちが工場を占拠し
南部からやってきた
出稼ぎは仕事に行かず
自動車を盗み
生活費に換えジェノバ
では赤い旅団が有力者
を誘拐している共産党は
保守政党と手を結び
労働組合は若者を
監視しはじめた逮捕者は
「懺悔者のシステム」
で無実の活動家を
有罪にするローマでは
ファシストが大学に
押し入り学生の頭
を撃ち抜いた

ラジオアリーチェが
流れるボローニャでは
「共有と開放」
と名のるカトリック
聖職者団体の
集会で排除された
アウトノミアの若者が
警官の銃弾によって
死亡する3月11日
その死はすぐさま
ラジオアリーチェの放送で
ボローニャの活動家が
知る追悼はデモから
暴動へと発展した
3月11日

3月12日

警察

がラジオアリーチェ

を襲撃し

鉛の時代

は最盛期

を迎える