山頭火を生きる:五月一日

早く起きた、うす寒い、鐘の音、小鳥の唄、すが/\しくてせい/″\する。
雑草を壺に投げす、いゝなあ。
身辺整理、その一つとして郵便局へ投函に。
私の身心はやぶれてゐるけれどからりとしてゐる、胸中何とはなしに廓落たるものを感じる。
北国はまだ春であつたのに、こちらはもう、麦の穂が出揃うて菜種が咲き揃うて、さすがに南国だ。
ありがたいたより、今日は作郎老からのそれ。
食べることは食べるが、味へない。
△誰か通知したと見えて、健が国森君といつしよにやつてくるのにでくはした、二人連れ立つて戻る、何年ぶりの対面だらう、親子らしく感じられないで、若い友達と話してゐるやうだつたが、酒や鑵詰や果実や何や彼や買うてくれた時はさすがにオヤヂニコニコだつた(庵には寝具の用意がないので、事情報告かた/″\、夕方からS子の家へいつてもらつた、健よ、平安であれ)。
午後、樹明君がまた鈴木周二君と同行して来庵(周二君は徴兵検査で帰省中、私の帰庵を知つて見舞はれたのである)、飲む食べる饒舌る、暮れて駅まで送る。
今日はよい日だつた、よい夜でもあつた。
・肌に湿布がぴつたりと生きてゐる五月
草からとんぼがつるみとんぼで
五月、いつもつながれて犬は吠えるばかりで
こんなところに筍がこんなに大きく
・おててをふつておいでもできますさつきばれ
・雑草につつまれて弱い心臓で
病臥雑詠
寝床から柿の若葉のかゞやく空を
柿若葉、もう血痰ではなくなつた
病んでしづかな白い花のちる
蜂がにぎやかな山椒の花かよ
・ぶらぶらあるけるやうになつて葱坊主
・あけはなつやまづ風鈴の鳴る
・山ゆけば山のとんぼがきてとまり
・あれもこれもほうれん草も咲いてゐる(帰庵)