早く起きる、八時の汽船に乗り込まなければならない。
 こゝでも黙壺君の友情以上のものが身心にしみる、私は私がそれに値しないことを痛感する。……
 宇品から三原丸に乗る、海港風景、別離情調、旅情を覚える。
 法衣姿の私、隣席にスマートな若い洋装の娘さん、――時代の距離いくばくぞ。
三原丸船中、――
 天気予報を裏切つて珍らしい凪、
 ラヂオもある、ゆつたりとして、
 人間は所詮、食べることゝ寝ることゝの動物か、
 高等学校の学生さんと漫談、
 瀬戸内海はおだやか、
 甲板は大衆的に、
 兎の子を持つて乗つた男女
 島から島へ、酒から酒へ!
 船中所見、――
 港について売子の売声、
 インチキ賭博、
 上陸して乗りおくれた人、
 修学旅行の中学生、私も追憶の感慨にふける、
 春風の甲板を遊歩する、
 団参連中のうるさいことは、
 船から陸へ、水から土へ、
 四時神戸上陸、待合室で六時半まで。
 自動車、自動車、自動車がうづまいてゐました。
・兵営、柳が柳へ芽ぶいてゐる
 ・旅も何となくさびしい花の咲いてゐる
  しつとりと降りだして春雨らしい旅で
  お寺の銀杏も芽ぐんでしんかん
 ・そここゝ播いて食べるほどはある菜葉
 ・水に影あれば春めいて
 ・春寒い朝の水をわたる
 ・船窓(マド)から二つ、をとことをなごの顔である
  なんぼでも荷物のみこむやうらゝかな船
  島にも家が墓が見える春風
  銭と銭入と貰つて春風の旅から旅へ(黙壺君に)