或る少女

高校生の頃、新聞配達のアルバイトをしていた。地方にコンビニもない時代、1970年代末、当時の感覚として、高校生に許されているのは新聞配達か皿洗い程度だったと思う。レコードとタバコと原付のガソリン代、たまに観る映画で無くなる程度のかせぎだ。休み時間以外はほとんど寝ている学校を終えて、夕刊を配達している時、その少女を見た。子猫を制服の中に抱いて、ひとり道端に立つ少女を。住宅街の車も人通りも少ない道だったが、配達範囲は彼女の立つ側にはなく、気になりながらも、ポストに夕刊を投げ入れ、自転車を走らせ次の配達先に向かう。次の日も猫を抱いた少女が同じ場所に立っていた。一月の間ぐらいだっただろうか、ほぼ毎日、多分高校生の彼女はそこに立っていた。ある日を境に見かけなくなり、自分もしばらくして新聞配達もやめた。心には妙な温かさが残った。何年も後になってからのことだが、彼女の立っていた側の一軒家の並ぶ団地は、在日の人たちの暮らす町だったことを知る。いや、その時、無意識のうちに気づいていたのかもしれない。

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