「恩地孝四郎」展を観る

すべての芸術作品がそうだというわけではないが、一つの作品の中には1冊の本以上の情報が詰め込まれている。あのミッシェル・フーコーの『言葉と物』が、ベラスケスの一枚の絵「待女たち」の分析から導かれたように。

onchi_tirashiH1_150dpi_CS4-724x1024東京国立近代美術館で開催されていた「恩地孝四郎」展を観る。400点もの作品が展示される大規模な展覧会だった。ひとつひとつ丁寧に見ていくには作品が多すぎて、出口にたどり着くころにはかなり疲れてしまった。

『月映』の木版画にみられるドイツ表現主義前衛=左翼的な構成主義に影響された作品から、油彩画のような表現を目指した「創作版画」への変遷、装丁作家としての成功と、戦前・戦中の “版画芸術を戦力化する” 日本版画奉公会の理事長就任による右傾化、終戦後のイデオロギーから離れるための抽象化など、日本の芸術界の苦難と妥協の歴史も感じることのできる展覧会だった。

恩地孝四郎に学ぶことは多い。木版画や装丁の可能性を切り開いた作家として、戦争協力を厭わなかった作家として、日本の美術史には欠かせない存在なのだから。