永井荷風『江戸芸術論』

というわけで、ゴッホの話をすることにした。『ゴッホの日記』を中心に話すつもりだが、浮世絵について触れないわけにはいかない。本棚に永井荷風の文庫『江戸芸術論』を見つける。いつ買ったのか、ちゃんと読んだかどうかは忘れてしまっているが、目を通すと、今回話そうと考えていることに大いに関わるものだった。

…特殊なるこの美術は圧迫せられたる江戸平民の手によりて発生し絶えず政府の迫害を蒙りつつしかも能くその発達を遂げたりき。当時政府の保護を得たる狩野家の即ち日本十八世紀のアカデミイ画派の作品は決してこの時代の美術的光栄を後世に伝ふるものとはならざりき。しかしてそは全く遠島に流され手錠の刑を受けたる卑しむべき町絵師の功績たらずや。浮世絵は隠然として政府の迫害に屈服せざり平民の意気を示しその凱歌を奏するものならずや。官営芸術の虚妄なるに対抗し、真性自由なる芸術の勝利を立証したるものならずや。宮武外骨氏の『筆禍史』は委ぶさにその事跡を考証叙述して余すなし。余またここに多くのいふの要あるを見ず。

宮武外骨の『筆禍史』も読まなければならなくなってしまった。