太陽とゴッホの耳

 まえがき

 許されていないことは起こりえない。日々、様々な事件が起こり、問題は無くなる気配を見せないが、それらは人間に許されている事柄なのだ。戦争も革命もすべては許されている。主神ゼウスが人間から取り上げた火を盗みとり、慈悲のこころで人間のもとに届けたプロメテウス。人類はその火を使って武器を作り戦争を始める。罰として英雄は山頂に縛り付けられ肝臓を鷲についばまれ続け、プロメテウスの火は原子の青い光となる。資本主義社会の中ではその火を吹き消すことは許されてはいない。人びとを奴隷とするために、軍隊と共に生産=消費のサイクルを見守っているのだ。

 共同体への要請は途絶えることがない。みんなどこかに属したいのだ。たとえそれが隷属に繋がるとしても、人びとは共同体を求めて彷徨い生きる。その中でやっと自分の立ち位置=アイデンティティを確立するのだが、実際の共同体は自己実現を可能にする場所ではなく、自己を投棄する地点なのだ。
 近代において、一人の人間の個人としての規定、産業革命による民衆の移動や資本主義によるプロレタリアートの出現によって、これまでの共同体の解体、再組織化が行われた。自然や人とのつながりを奪うことによって再組織化された共同体は、精神的なつながりよりも経済的な交換によって成り立つものだったために、共同体そのものが失われつつあるという危機感を持つことになり、共同体への強い要請が生まれた。
 帝政ロシア末期に、文豪トルストイによる共同体運動が起こった。キリスト教の教義をもとに国家や私有財産を否定しつつ非暴力革命によって理想世界を実現するという運動だ。トルストイ運動の広がりによってコロニーと呼ばれる共同体が各地に出来る。そこではトルストイ主義の実践が行われ、ロシア革命にも影響を及ぼすことになる。共産主義革命が世界で起こることによって、国家は無くなり、戦争も消え去るはずだったが、国家は全体主義へと変節してゆく。国家の脆さを知った民衆は強い国家を期待するようになったのだ。

 

 

明治大学《特定課題講座 風に吹かれて テントは世界を包む2018》

今日、6月11日(月)から始まる《特定課題講座 風に吹かれて テントは世界を包む2018》明日、6月12日(火) に「神話と共同体《プロメテウスとしてのヴァン・ゴッホ》」として、ゴッホの共同体についてお話しします。

特定課題講座の期間中は毎日興味深い講座が行われます。ぜひ「野戦之月」のテントに出現する一時的共同体を体験してください。

※「野戦之月」は舞台で火を使うことが特徴ですし、演出家の桜井大造さんはプロメテウスなのかもしれません。

日 時:6月11日(月)~6月16日(土) 18時半開場 19時スタート
会 場:明治大学和泉キャンパス(京王線明大前駅徒歩5分)、第三校舎前特設テント
主 催:明治大学大学院教養デザイン研究科
協 力:テント劇団「野戦之月」

○入場無料・事前申込不要

6月11日(月)講演「自分を好きになる禅のヒント」
講師:笠倉玉渓(人間禅)
コメンテーター:本間次彦(本研究科「思想」コース/東洋哲学)

6月12日(火) 講演「神話と共同体《プロメテウスとしてのヴァン・ゴッホ》」
講師:上岡誠二(芸術活動家)
コメンテーター:岩野卓司(本研究科「思想」コース/フランス現代思想)

6月13日(水) 講演「セトラー・コロニアリズムとアメリカ合衆国——
            不可視化される先住民族と核開発」
講師:石山徳子(本研究科「平和・環境」コース
コメンテーター:森永由紀(本研究科「平和・環境」コース/気候学・環境科学)

6月14日(木) 学術ワークショップ「石川啄木を語る夕べ—留学生の報告と映画等を通して—」
コーディネーター:池田功(本研究科「文化」コース/日本近代文学)
報告書:劉怡臻(本研究科後期課程)、応宜娉(本研究科博士前期課程)
コメンテーター:井上善幸(本研究科「思想」コース/ヨーロッパ文学及び哲学)                          
6月15日(金) ドキュメンタリー映画+討論会「大テント—想像力の避難所—」
監督:陳芯宜(映像作家、台湾テント劇団「海筆子」メンバー
コーディネーター:羅皓名(本研究科博士後期課程、「海筆子」メンバー)
コメンテーター:丸川哲史(本研究科「平和・環境」コース/ナショナリズムと知識人)
    
6月16日(土) 試演会ワークショップ(テント劇団「野戦ノ月」+本研究科教員&院生)
「イーハトーヴの鍵」
脚本=森美音子、ばらちづこ、丸川哲史、監修:桜井大造
ワークショップ指導:桜井大造(「野戦ノ月」演出家)