ラジオアリーチェとその時代(3)

1979年4月7日
パドヴァ大学
政治学部の全教員
を含む六十六人
が魚の泳ぐ水
を取り除く目的で
一斉検挙投獄

人民は海であり、ゲリラは人民の海に泳ぐ魚である

逮捕者の中には
アウトノミア
の理論的支柱
アントニオ・ネグリ
もいたアルド・モーロ
キリスト教民主党党首
誘拐殺人首謀の罪に
問われ最重要警備
獄舎に投獄

禁獄四年目に急進党
から国会議員に出馬
選出され出獄二ヶ月
後には議会で
議員特権剥奪
の決定が下される
剥奪賛成票
の中には急進党
の票も含まれる

No future, no future, no future
No future, no future, no future

未来がなくなること
は歴史が止まる
あるいは世界全体
が歴史の外側へ
と漏れ出すことだ

<帝国>

人民という海

は干上がりやがて

世界のメルトダウン

が始まる

ラジオアリーチェとその時代(2)

イギリスでは
失われた未来
から生まれた
叫びが響き渡る

No future, no future, no future for you
No future, no future, no future for me
No future, no future, no future for you
No future, no future for you

日本では自殺する若者
が増えていると新聞
が伝えるボローニャ
では弾圧に抗する
国際集会が開かれ運動
が集結するがイタリア
の知識人は賛同せず
さらなるテロリズム
への暴走がはじまる

1978年キリスト教
民主党総裁アルド
モーロが誘拐され殺害
キリスト教民主党
と共産党が交わる
カエターニストリート
に駐められた真っ赤
なルノーの中で発見

赤い旅団は
拳銃で足を狙い
誘拐殺害を繰り返す
監獄では蜂起が
最前線や組織化
されたアウトノミア
は襲撃を繰り返す

ラジオアリーチェとその時代(1)

イタリアの冬
1977年の冷たい朝
真空管あるいは最新型の
トランジスタラジオ
からエンツォ・デル・レの
Lavorare con lentezza
が流れてくる

ゆっくり働くんだ
なにひとつ頑張ること無く
急調子で働く連中は
自分を傷つけて
しまいには病院行き
でも病院のベッドは満杯
だから間もなく死んでしまうよ

ラジオアリーチェの
一日の放送が始まった

トリノでは労働者
たちが工場を占拠し
南部からやってきた
出稼ぎは仕事に行かず
自動車を盗み
生活費に換えジェノバ
では赤い旅団が有力者
を誘拐している共産党は
保守政党と手を結び
労働組合は若者を
監視しはじめた逮捕者は
「懺悔者のシステム」
で無実の活動家を
有罪にするローマでは
ファシストが大学に
押し入り学生の頭
を撃ち抜いた

ラジオアリーチェが
流れるボローニャでは
「共有と開放」
と名のるカトリック
聖職者団体の
集会で排除された
アウトノミアの若者が
警官の銃弾によって
死亡する3月11日
その死はすぐさま
ラジオアリーチェの放送で
ボローニャの活動家が
知る追悼はデモから
暴動へと発展した
3月11日

3月12日

警察

がラジオアリーチェ

を襲撃し

鉛の時代

は最盛期

を迎える