野生の教養〜飼い慣らされず、学び続ける

昨年、高円寺で開かれたグループ展に《現代の寓話》というシリーズ写真を出品した。ほんとは「神話」としたかったが、勘違いされやすい語彙なので「寓話」とした。東京を歩きながらハーフサイズのフィルムカメラで撮影した写真を二枚一組に「ブリコラージュ」したシリーズで、レヴィ=ストロースが考えたように、そこから神話が生み出されることを期待していた。

 

明治大学の岩野卓司さん、丸川哲史さん共編の本『野生の教養〜飼い慣らされず、学び続ける』が出版された。お二方には、自由芸術大学で講座を開いていただいたこともある。
丸川哲史〔魯迅の世界性、現代性、政治性〕、岩野卓司〔贈与論――資本主義を突き抜けろ!
出版は法政大学出版局だが、明治大学の先生方が執筆した「野生」を含んだ、または「野生」につながる、さまざまなテーマで書かれた論稿が集められている。それらを「野生的」にプリコラージュすることで、新しい教養を生み出すことを目論んでいるのかもしれない。装丁には、丸川さんの木版が使われている。今年一番のおすすめ本です。

https://h-up.com/books/isbn978-4-588-13033-5.html


目次
はじめに──野生の教養とは 【岩野卓司】

第1部 “野生”の思考

野生の教養のために──未来のカニバリズムのためのブリコラージュ 【岩野卓司】
貧乏花見のブリコラージュ 【畑中基紀】
音楽における野生の教養──ブリコラージュ楽器を中心に 【加藤徹】
野生と現代アート 【瀧口美香】
身体とテクノロジー 【鈴木哲也】
比喩の彼方 【虎岩直子】
ベケットにおける動物性のエクリチュール 【井上善幸】
野性と文明の狭間で 【斎藤英治】
ブリコラージュとしての風景──永井荷風と「煙突」 【嶋田直哉】
疑似的な野生──古代日本人の心性一斑 【伊藤剣】

第2部 “野生”の政治

戦後にループする「裂け目」──林芙美子の「野性」と「生態」 【丸川哲史】
クンとメ・ティ 【本間次彦】
猿は何者か──『猿の惑星』にみる人種表象 【廣部泉】
南洋の記憶──土方久功の『流木』 【広沢絵里子】
相互扶助による「支配のない状態」の実現は可能か──ピョートル・クロポトキンの相互扶助論に焦点を当てて 【田中ひかる】
ムスリム・アナーキストの思想 【佐原徹哉】
イラン映画にみる《野》のリリック──キアロスタミ作品から 【山岸智子】
EDの力 野生の苦悩 【池田功】

第3部 “野生”の人類史

野に生きるための教養──モンゴルの遊牧知について 【森永由紀】
自然保護区域は語る 【薩摩秀登】
「野生」の大地に生きる「野生」の人びと──ディオールの香水、ソヴァージュの広告からみえてくるもの 【石山徳子】
技術から見た東南アジアの展開 【鳥居高】
春の洞窟へのウォークアバウト──『家畜追いの妻』とアボリジナル・オーストラリアの知流 【中村和恵】
教養と身体教育 【釜崎太】
狛犬は旅をする、私も旅をする──「旅する教養」の多様なありよう 【川野明正】
合巻詞書の難解さ 【神田正行】
人新世における地球と人類の共生──野生を考える意義はあるか 【浅賀宏昭】

特別寄稿
在野の詩人・山内義雄を求めて 【高遠弘美】

おわりに──「教養」の反省と復権 【丸川哲史】

内容紹介
このご時世に大学という場から、かくも威勢よく刺激的な言葉が発せられたとは痛快事ではないか。斬新な視野を切り開く論考がめじろ押しだ。野生の知がざわざわと騒ぎ出すその瞬間の、得もいわれぬスリルを体感せよ。
野崎歓(東京大学名誉教授・放送大学教授)

野生の教養とは、農耕以前の歴史にさかのぼる、狩猟採集時代の知に基づく教養である。資本主義的・植民地主義的・官僚主義的価値観に侵された「栽培=家畜化された思考」に否を突きつけ、ブリコラージュ的発想による「野生の思考」を現代社会に復権し、飼いならされない自由な学びをつくりなおす。明治大学大学院教養デザイン研究科の多士済々の教員が問いかける、野心的な教養入門の書。

著訳者プロフィール
岩野 卓司(イワノ タクジ)
明治大学法学部教授。著書:『贈与論──資本主義を突き抜けるための哲学』(青土社)、『贈与の哲学』(明治大学出版会)、『ジョルジュ・バタイユ』(水声社)、共訳書:バタイユ『バタイユ書簡集 1917–1962年』(水声社)。

丸川 哲史(マルカワ テツシ)
明治大学政治経済学部教授。著書:『魯迅出門』(インスクリプト)、『思想課題としての現代中国』(平凡社)、『竹内好』(河出書房新社)、『台湾ナショナリズム』(講談社)。