無政府主義の幼蟲

木版画とその下絵を提供した、一錢亭文庫/菊池 與志夫「大杉榮氏を憶ふ」。大杉と手紙をやりとりした後に、大杉に直接会いに行った日の事を「無政府主義の幼蟲」と題した記事で書いている。大正11年10月29日の午後、菊池は〈労働運動社〉に大杉を訪ねたのだが、あいにく不在で、玄関で労働運動社の人たちに挨拶をしただけで門を出る。帰り道になぜか「八百屋お七の艶つぽい、たまらなく可愛らしい顔の夢」を思い起こしている。

大杉栄を題材にした映画がある。吉田喜重監督、細川俊之、岡田茉莉子 出演の『エロス+虐殺』。「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」と大杉は書いたが、乱調とはエロスのことではなかったか。菊池與志夫は大杉を訪ねた帰り道に、エロティックな白日夢をみたという。エロティシズム抜きでは、ほんとうの大杉栄を語れないのだ。